今後、旅の日記を書くために用意したブログ

今後、旅の日記を書くために用意したブログです。今のところ旅に出る予定は無いので、旅の日記以外のことばかり書いています。

『スクラップ・アンド・ビルド』を読むまで

 

ルンバが部屋の入り口の段差と柱の間で無限回小刻みに反復運動をしている。しばらくするとAIがこれは無意味だと判断を下すのだろうか、やや向きを変えるがまた無限回の反復運動に入る。

 

 

恐らく多くの日本国民と同じく、私が羽田圭介という名前を知ったのは数年前の芥川賞受賞というニュースだった。ピースの又吉直樹『火花』が完全に話題を奪い去り、もう一人の受賞者である羽田圭介が取り上げられることは全くないかと思いきや、以後少しずつメディアへの露出が増え、屈強な黒人(だったはず)が出題する簡単な英語の質問に答える企画で「next question please!」と挑発を見せた時から、この羽田圭介という男に私は興味を持ち始めた。

 

無限回の反復運動を繰り返した結果、ルンバは充電が尽き、充電ゾーンまで持っていかれる運びとなった。

 

昨年太川アンド蛭子から田中要次羽田圭介にキャストが変更された3泊4日路線バスだけで時刻表と戦いながらゴールを目指すやたらと金のかかる貴族の遊び(貴族は路線バスには乗らないが)みたいな番組・バス旅Zでは、日没後疲れ果てて亀岡から先に進むのを渋る田中要次と女性ゲストに「バスがあるのに進まない論理は弱い」と発言したりホテルを取るのに「芥川賞作家の羽田圭介と申しますけれども」と電話したりする奔放さに惹かれる。田中要次と横に並ぶと田中要次よりも身長が高く調べると180cmあり、確か競輪の実業団選手を目指していたらしい。凡そこの作家離れした異色の人物は、ここ数年間参考書以外にまともに本を読まない私をして芥川賞受賞作『スクラップ・アンド・ビルド』の購入決断に至らしめた。

MARUZENジュンク堂梅田本店で、参考書と地図のフロアでしかエスカレーターを降りたことがない私は「現代作家男性」「現代作家女性」といった括りとは独立して「村上春樹」の4文字がスペースを占有していることなど知る由も無かった。表紙が見えるように配列されている例の又吉直樹『火花』はすぐに発見できたが、羽田圭介は表紙が見えるように配列されてはいなかった。「現代作家男性」のコーナーを奥まで行って戻り、図書館などでもそうであるように作家が50音順に並べられているということに気付くまでに数分を要する。自分でお金を出して小説を買うという経験が皆無なので仕方ないのである。考えてみたら当たり前かもしれないが、何も羽田圭介は『スクラップ・アンド・ビルド』だけを書いているわけではない。手元の『スクラップ・アンド・ビルド』の奥付けを見るとデビュー作に『黒冷水』とある。しかしながら、この時まで羽田圭介という作家が『スクラップ・アンド・ビルド』以外に小説を書いているという意識はなかった。『スクラップ・アンド・ビルド』の左右数冊に渡り並べられる羽田圭介。先ほどの奥付けを見るとデビューは2003年とある。しかしながら、私にとっての羽田圭介誕生はほんの数年前である。

『スクラップ・アンド・ビルド』

私はこの語句の列を音読したいだけではないのか。

『スクラップ・アンド・ビルド』

そろそろこの語句列もユーザ辞書に登録されるだろう。

『スクラップ・アンド・ビルド』

私は『スクラップ・アンド・ビルド』を手に取り数ページめくって読む。意外と薄い。そしてページの上下の空白が広く、これなら気軽に読めそうな気がしてくる。

『スクラップ・アンド・ビルド』

私は『スクラップ・アンド・ビルド』を閉じ裏を向け値段を確認する。1200円くらい。5000円の図書カードも残り2000円少しある。

『スクラップ・アンド・ビルド』

紀伊国屋の店員は図書カードを出してもポイントカードのポイントを消費するか尋ねるが、ジュンク堂では無理なのかもしれない。

『スクラップ・アンド・ビルド』

最近他の人のブログを読んでいて以前から感じていたブログの終わり方の爽やかな文体の謎が解けた。則ち、まず記事終了前2つ目の文章で未来志向「だろう」で文を閉じる。そしてその後最終文は動詞の現在形(例えば「明日は明日の風が吹く」といったような)で結ぶ。この辺りは過去形を使いすぎたり、はたまた現在形を使いすぎたりすることで文章の流れが単調になるため、両者をパラグラフの流れの中で適度に配置することにも通じているのかもしれない。ともあれ、これで漸く『スクラップ・アンド・ビルド』を読むことができる

さて、あなたは一体何冊『スクラップ・アンド・ビルド』以外の羽田圭介の小説を挙げることができるだろうか。

明日は明日の風が吹く

 

 

終わり