今後、旅の日記を書くために用意したブログ

今後、旅の日記を書くために用意したブログです。今のところ旅に出る予定は無いので、旅の日記以外のことばかり書いています。

初代エントロピー政策担当大臣の談話

それでは定刻になりましたので、エントロピー政策担当大臣から、独立した行政機関としてのエントロピー省の設立に至った先般の経緯と、今後のエントロピー政策の展望についてご説明を頂きたいと思います。それでは大臣、お願いいたします。

みなさま、大変お忙しい中、お越しを頂きまして、ありがとうございます。まず本題に入る前に、昨今のエントロピーを取り巻く日本及び世界の情勢について軽く触れてから、本題に入りたいと思います。党のワーキンググループとして、エントロピー部会が立ち上がったのが今から5年前の12月になります。それ以来、我が党はエントロピー政策こそが、現在の閉塞した日本経済の状況を打ち破り、世界の発展に資することができると信じて本日までやって参りました。物理学者をはじめとして、熱、量子、情報の分野で著しい業績を残されている先生方、また歴史や経済を専門に研究されている幅広い分野の先生方を大学、シンクタンク、企業など所属は問わずお招きし、あるべき政策の形を徐々にではありますが、今日に至るまで研究して参りました。その成果を元に、先の衆院選では我が党は公約としてエントロピー政策の推進を掲げ、多くの国民のみなさまからの支持を得て、第一党を勝ち取ることができました。そのような強力な国民のみなさまからのバックアップ無しには、エントロピー政策は実現できません。まずは国民のみなさまに深くお礼を申し上げたいと思います。さて、世界に目を転じてみますと、もはやエネルギー政策、そしてエントロピー政策こそは国家を挙げて取り組むべき課題として各国が研究を進めております。このような情勢に先立って、我が国がエントロピー政策を進める上で、独立した行政機関としてのエントロピー省の設立に至ったことは、今後我が国が世界を牽引していく上で不可欠な土壌を醸成したものと、深く評価されるのではないかと考えております。

それではここからは具体的に、エントロピー政策および、エントロピー政策を具体的に推進するためのエントロピー省についてご説明をいたします。すでに我が党は先の衆院選エントロピー政策を公約に掲げておりますし、また連日の報道でエントロピー政策については、世論が高まりを見せていることもまた事実でありますから、ここでは概要だけ、お話ししたいと思います。まず、前提となるエントロピーについてですが、これは科学、歴史的な文脈では元々、主に19世紀後半から熱学がいよいよその完成を見る時期でありますが、熱力学第二法則に端を発するものであります。熱力学第一法則につきましては、まあ広義のエネルギー保存則ということで、みなさまご存知だと思いますから、説明を省略したいと思います。熱力学第二法則は、ドイツの物理学者クラウジウスが1850年に発表した論文で初めて提唱されたものであります。この時はまだエントロピーという概念は無く、数学的体裁もまとっておりませんでしたが、同じくクラウジウスが1854年に第二法則の数学的表現にたどり着き、また同じくクラウジウスが65年に状態量としてのエントロピー概念に到達したことを以って、人類のエントロピー概念の獲得ということになる訳であります。その後、第二法則はまま難解であったためにエネルギーの散逸だという誤解をされ続け、また当初クラウジウスが想定したことには熱拡散と物質拡散の両方を以ってエントロピー概念を考えていたわけでありますが、世界の歴史の進展の中で後者に関しては顧みられることがなく、不可逆的な環境への物質の拡散が、人間の生存問題に関連した環境の問題となっていたことは皆様も記憶に新しいかと思います。その後エントロピーを取り巻く歴史は、物理の関心を飛び越して、まず情報分野にその応用を見ることになります。情報理論がますます発展する中、1948年にシャノンが情報理論の枠組みでエントロピー量を考えることを提唱したわけです。これはエントロピー概念の他分野への最初の応用例でありますが、エントロピー概念の持つその本質性、普遍性ゆえに、この後しばらく、今日に至るまで他分野へのエントロピー概念の輸出が進みます。今日の学問体系、社会体系は、もはやエントロピー概念無しには成立しません。それだけの重要性を持った量であることを、まずは国民の皆様に認識を頂きたいと思います。

さて、本日我々は目玉政策を発表いたします。それは、今年度よりエントロピーGDPに代わる新たな、世界的に通用する経済指標として導入を進めるということであります。従来より経済指標としてのGDP、国民総生産については多くの問題が指摘されていました。専業主婦の家事労働など、社会的に不可欠であるにも関わらず、経済統計に反映しない多くの仕事の従事者による労働が、GDPには勘定されなかったのです。また別の問題もあります。例えば環境破壊は、これは社会的には防止しなければならない課題でありますが、環境破壊、環境汚染を伴う企業活動による経済効果は、正の影響としてGDPに勘定されてしまうのです。しかしながら今日までGDPが、以前はGNPでしたけれども、国際比較の経済指標として使用されてきた背景には、やはりGDPに代わる有力な指標が存在しなかったということが挙げられます。我々は、エントロピーGDPに代替する有力な指標候補として、世界に向けて提出いたします。エントロピーはしばしば、「乱雑さ」の指標であると表現されます。また、このことから、いわゆる「宇宙の熱的死」という考えが広く支持されてきたという経緯もあります。しかし、我が党のワーキンググループの特別顧問でもあられます日立製作所の矢野フェローも仰られているように、エントロピーは「自由さ」の尺度であるという考えを、普及させていく必要があると思います。国民のエントロピー増大、つまり国民一人一人が豊かな自由を実現できる多様な社会、これが我が党の理念でもあり、実行してゆくべきエントロピー政策の理念でもあると、我々は考えています。

そのようなエントロピー量を、社会の状態を反映する量として定量的にモニタリングするためには、いくつかの障害があります。まず一つの大きな問題は、国民生活を反映するエントロピーのデータを大規模に収集することです。このことに関しましては、以前、トリリオンセンサーという考えが大きく話題となったことがありますが、最も重要なのは人間のデータであります。まずは国民一人一人にウェアラブルセンサを配布することで、国民の状態を大規模に定量的に把握するためのデータを収集できると考えております。ここで問題となるのは、やはりプライバシーの問題です。もちろんウェアラブルセンサの着用は強制ではありませんし、先の衆院選でも多くの国民のみなさまに納得をして頂いているという我々の判断でもあります。しかしながら、一人でも多くの国民にデータ収集に協力して頂くことで、デジタル庁とも連携を図りながら、収集した膨大なデータを解析し、国民社会の改善に繋がるフィードバックを回すことができると考えています。また、このようなシステムが構築され、収集されたデータから意味が見出せるようになると、将来的には、リアルタイムで把握される民意から、より高度な政治判断を行うことができるようになるとも考えています。そのような意味でも、国民のみなさまにご協力を頂きたいと思います。我が国は自由と平和を希求する民主主義国家として、国民による正当な選挙によって選ばれた代表者によって政治を行うことを憲法で規定しています。権威主義全体主義といった体制ではなく、民主主義の国家によりこのようなシステムを構築することができると世界に示すことができれば、それは世界の発展にも大きく寄与するのではないかと、我々は考えています。いずれにしましても、このようなエントロピー政策を実現推進するための行政組織として、エントロピー省を設立いたしました。この政策は、政府だけで実現するものではありません。国民のみなさま一人一人の協力によって、よりよい社会が目に見えて実現されてゆく様子を見ることができるのを、我々といたしましても、楽しみにしております。それでは手短ではありますが、私の方からの説明は以上とさせて頂きます。

それではこれから質疑応答の時間といたします。まずは幹事社の方から大臣に質問をお願いします。質問は一人ひとつまで、必ず所属と氏名を述べてから質問をお願いします。それではよろしくお願いします。

 

参考文献:

『熱学思想の史的展開<3> 熱とエントロピー』(山本義隆ちくま学芸文庫、2009)

『IoTとは何か 技術革新から社会革新へ』(坂村健角川学芸出版、2016)

『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・社会・組織の法則』(矢野和男、草思社文庫、2018)